
日本の生命保険会社は世界最大の投資家グループの一角を形成しており、保険加入者へ支払う保険金捻出のために、保険料を株や債券に投資している。その保有投資資産総額はドイツの国民総生産(GDP)にほぼ並ぶ3.4兆ドルに上っている。
その額のごく一部を開発効果のあるプロジェクトに投資すれば多くの人々を貧困から救い、気候変動の破壊から守ることができることを歴史は示している。それは正しいことではあるものの、当然、本邦生命保険各社のリスク回避志向は強い。多額の損失を出すことはできず、投資資産は負債と見合う必要がある。例えば保険加入者には円で支払うため、円資産に投資することを好む。
これらの制約を前提とすれば、南アフリカのある国営企業のユーロ建て負債は日本の機関投資家にとっては投資対象外となる。通貨リスクにカントリーリスクが相まって、投資対象として不適格である。
しかし、みずほフィナンシャルグループ(以下、「みずほ」)はMIGAと連携してこの融資を日本の生保会社と銀行に魅力ある投資対象にする方法に取り組んだ。この取引は、開発途上国の雇用を創出するグリーンエネルギープロジェクトに数兆円に上る融資の道を開くとともに、低金利の世界で利回りを獲得しようと苦闘する銀行や生保会社にとっての一つのモデルとなり得そうだ。
証明されたストラクチャー
「みずほは、我々がどうしたら日本の機関投資家を開発途上国への投資により向かわせることができるかを示してくれた」とMIGAの林田修一駐日代表は語る。「その仕組みを試し、機能することを証明し、他の地域でも同じ方法が使えることを示した」という。
みずほがどのように日本の機関投資家を本案件の組成に動員したのかという物語は2016年に始まる。みずほと他の銀行が当該南アフリカの企業に計4億7000万ユーロを融資したのだ。世界銀行グループの投資保証機関であるMIGAは、その融資のデフォルトリスクを保証をして、同企業がユーロ建て融資をより好条件で引き受けられることを可能にした。
そして数年後、みずほは約1億5500万ユーロの同企業に対する融資を他の投資家に売却し、同行のバランスシートに新規融資取り組みの余地をさらに広げようとした。日本の生保会社はその潜在的バイヤーだったが、彼らにとってこの様な融資は通常の投資対象ではなかった。部分的ではあるが保証されない融資が残り、かつユーロ建てであったため、MIGAの保証が付いても、生保各社が許容できそうなリスク内に収まらなかった。ユーロの価値が下落すれば、そのローン返済の良し悪しに関わらず損失を被るからだ。
このため、みずほの担当者は、金融業界では「リパッケージ」と呼ばれる手法を通じて融資のストラクチャリングに着手した。
第一ステップは特別目的会社(SPV)を設立し、みずほのローンを3クラスの債券に分けた。そのうち2クラスはMIGAの保証付き、1つはドル建て、もう1つは円建てとした。残る1クラスはMIGAの保証は付かず、ユーロ建てのままとした。
リスクミックス
みずほは、日本の機関投資家がMIGA保証付きの2クラスの債券には興味を示すだろうと推測した。そしてより高い利回りを得る見返りに大きなリスクを取ることを厭わない一部の投資家がMIGA保証が付保されない部分を購入するであろうと考えた。
「ほとんどの場合、投資家は違うタイプのリスクが混在することを嫌います」とみずほのロンドン拠点でストラクチャード・トレーディング&ファイナンシング部門のヘッドを務めるマイキー・グエン氏は話す。「我々はそのリスクを切り分けたのです」と指摘する。
しかしローンの切り分けには、保証を付保しているMIGAの同意を必要とした。
MIGAのシニア・ポートフォリオ・オフィサー、ビクトリア・ジューバ氏は、「この創意工夫が施されたローンは、他の方法では叶わない投資を開発プロジェクトに呼び込む助けとなると我々は理解しました」という。そして「みずほは、これらの機関投資家の後ろ盾があるため、より多くの融資案件を手掛けられることになります」。
MIGA保証付きと無しの2種類に切り分けた後、みずほ銀行は通貨スワップを使って保証付き分の大半をユーロ建てから円建てに転換した。そして残る少ない部分をドル建てに変えた。日本の生保会社がドル建て資産を買うのは、大抵、多少の通貨リスクをとっても高い利回りを求める時だ。
通貨スワップでは、2者が、ある一定量の2つの通貨、例えば1億7000万ユーロを2億ドルと交換する。これは1ユーロが1.18ドルの為替レートであることを意味する。スワップは複数年契約も可能であり、その期間中は両者が必要とする通貨が提供される。
安全性と利回り
みずほは様々な通貨での投資家の債券購入意欲を調べた後、1億900万ユーロを円にスワップすることを決めた。これはMIGA保証の付いた融資に相当する額だ。この部分の債券の利回りは1%に満たないが、日本の生命保険会社にとってはMIGA保証が付いた最も安全な投資となる。また円建てであるため、為替変動リスクもない。
そして、MIGA保証付きの4300万ユーロ分をドルにスワップした。この分は2%の利回りとなるが、それは米国金利の方が高いためだ。ただ為替リスクが発生する。みずほはMIGA保証付きのこの2種類の債券両方の購入者を見つけた。ある邦銀が円建て分を購入し、ある生保がドル建て分を購入したとみずほは言う。
その結果、元の融資のうちMIGA保証が付保されていない780万ユーロ分が残った。みずほはそれをユーロ建てのままとして、さらに大きなリスクを取る意欲のあるスイスの資産運用マネージャーに売却した。この部分については、当該南アフリカ企業の単独で南アフリカ財務省の保証の付いたものとして存置された。これにはより高い変動金利が支払われる。
「このリパッケージの成功は、ローンを異なる種類の投資家用に仕立て直し、開発途上の若い国の政府や企業に新たな資本調達の道を開く一方、長期の負債を抱え、それに見合う期間の資産を必要とする保険会社などの利回りを向上させる」とMIGAの機関投資家部門ヘッドのディープティ・ジェラス氏は話す。
みずほ銀行のグエン氏も同意する。
「ローンを一つの形式で、一つの手法で売却すれば、一つのタイプの買い手しか見つからない。多分この様なリパッケージ形式の取引は、従来より多くなるはずだ」